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RPR療法(「多血小板血漿」療法)の不妊治療への応用

文責:田中 / 2020年5月10日

この度、メディカルパーク湘南がPRP療法の実施可能施設として、厚生労働省から施設認定されました。
PRP療法は難治性不妊症や、子宮内膜菲薄化(子宮内膜が薄くなる状態)によって、着床障害を起こしている患者さんに対する治療法として期待されている再生利用の一つです。このPRP療法について解説して行きます。

PRP療法とは?

PRP(:Platelet Rich Plasma)療法とは、「多血小板血漿」療法と言われるもので、血液中の血小板に含まれる成長因子を利用し、治癒力を高めることでケガや病気の治癒を促す再生医療です。
血小板は、出血を止める作用を担う血球成分ですが、止血作用以外に、細胞増殖や血管形成を促す様々な成長因子を含んでいます。それらが血管の損傷部位に直接働きかけて細胞増殖を促進し、修復機能を高め、自然治癒力によってケガや病気を治療するのです。
PRP療法とは、患者ご自身の採血された検体を、特殊な方法で血小板だけを抽出・濃縮して、様々な治療に利用するという方法です。
ちょっと前に、大谷翔平選手が右肘を故障した際に、PRP療法を行ったというニュースが話題になりました。日本でも、しわ取りなどの美容皮膚科領域、難治性皮膚潰瘍・やけどなどに対する再生医療、プロスポーツ選手の怪我や故障の治療など、様々な領域で使われており、その人個人の血液由来の成長因子を用いた新しい再生医療として注目されています。

② 不妊治療への応用を示す論文

2015年に中国から画期的な論文が発表されました 。
彼らは体外受精を行いながらも、子宮内膜が常に7mm以下で薄過ぎるために、移植キャンセルを繰り返している患者名に対して、このPRP療法を試みました。すると、PRPの子宮内腔への注入後、48~72時間で、5名とも子宮内膜の厚みが1mm以上厚くなったのです。さらに、驚くべきことに、5名全員が妊娠したというのです(うち、一人は流産)。その後、世界各地で、同様の治療が行われるようになり、その有用性が認められつつあります。
ここに、一つのデータを出します。これは2017年のイランのグループが発表した論文の引用です 。彼らも、やはり子宮内膜厚が7mm以下の症例を10例集めて、同様にPRP注入を試みました。すると、図のように、10名全ての症例で子宮内膜が厚くなり、このうち4名(40%)が妊娠したという結果を報告しました。

 

また、さらにこうして行われた比較試験をいくつも合体させて結論を導き出す「メタアナライシス」(Meta-analysis)という手法があります。メタアナライシスは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析するので、最も信頼性が高い分析方法と言えます。この不妊治療におけるPRP療法の有効性についてのメタアナライシスの論文をご紹介します。
2020年に「Journal of Reproductive Immunology」という結構権威ある医学雑誌に掲載されたものです[i]。彼らは、様々な医学データベースからPRPについてヒットした1,107本の論文から、信頼に足る比較試験を行っている研究7本を選び、その合計症例625症例(PRP群311症例、対照群314症例)を解析しました。その結果、子宮内膜はPRP投与群では、非投与群に比べて、平均で0.94mm厚くなっていました。そして、臨床妊娠率はPRP投与群では、非投与群に比べて1.73~2.78倍になっていました。流産率については、両群に差はありませんでした。

この結果から、PRPは着床障害の患者さん、子宮内膜が薄い患者さんにとって、有効な治療法と結論づけても良さそうです。恐らくは、血小板の中にある細胞増殖因子が子宮内膜に働きかけて子宮内膜の成長を促すのではないでしょうか。

 

 

 

PRP療法の具体的な手順

具体的な手順などについてご紹介します。
PRP療法は人工授精または体外受精を行っている方が対象となりますが、恐らく、まだ人工授精の段階の患者さんは希望されないと思うので、実質的には体外受精の患者さんが対象となるでしょう。
凍結融解胚移植周期中に、2PRPを子宮内に注入します。1回目が月経10日目前後、2回目はその2日後に予定を立てます。施行当日、患者様には16時に外来を受診して頂き、予めお渡ししておいた同意書を確認したうえで、前腕から静脈血を採取します。これは通常のホルモン採血と全く同様の手順ですが、PRP用の針がちょっと太いので痛みを強く感じるかも知れません。約20mlの静脈血を特殊な検査管に採取した後、遠心分離機で血漿部分を抽出し、その後 多血小板血漿として、調製したPRP(約1 ml)を患者様の子宮内に注入します。遠心分離には約30~45分程度を要します。この際、PRPには血小板が多く含まれているため、検体が凝固してしまう場合があり、その場合は再度採血をお願いする場合もあります。PRPの注入自体には、人工授精の精子注入や体外受精の胚移植と同様の要領となりますので、それほどの痛みは伴わないと思います。そして、注入後はベッド上で約30分程度安静にして頂きます。

2回目のPRP注入より約2日後に再度受診をしていただき、ホルモン値の採血および子宮内膜の測定を行います。そして、移植日を決定し、そこから逆算して、プロゲステロン製剤の投与を開始します。

おおよその費用

この治療を受ける場合、保険適応外のため、自費診療となります。診療費は2回のPRP注入で15万円です(消費税別)。ご予算や日程などのご都合で、1回とする場合には、10万円(消費税別)となります。

PRP療法の作用機序は分子レベルで全て解明されている訳ではありません。理屈で考えると、血小板の中に含まれる成長因子や細胞増殖因子が子宮内膜に働きかけ、その成長を促すことで着床能が改善するのだと思われますが、子宮内膜が必ずしも厚くならなくても妊娠率は改善しているというデータもあるようです。金額の設定に関しては、いつも通りに徹底的に安く抑えたつもりです。しかしそれでも2回で15万円という金額は決して安いものではありません。PRPを注入した場合、内膜がどれくらいになっていれば、移植を決断し、あるいはキャンセルするのか、予めご夫婦で話し合っておくと良いでしょう。

 

メディカルパーク 湘南はPRP療法の実施可能施設です

PRPによる再生医療は、メディカルパーク湘南を含め、神奈川県内ではまだ3施設しか認定されておらず、これからの発展が期待される領域です。

メディカルパーク湘南にも子宮内膜が薄いがために、折角の凍結胚を移植することが出来ずに、苦労されている患者さんが沢山います。
そうした患者さんにとって、PRPの子宮内注入療法は朗報となるはずです。しかし、このPRP療法は再生医療に位置づけられるため、厚生労働省の厳正な審査を経ないと認可されず、この申請に随分時間を費やしました。この度、晴れて、認可が下りたので、この場でご報告させて頂きました。

当院での治療実績

国の認可を受けてから約半年が経過しましたが、これまで、延べ人数で41名、施行件数で89件の方がこのPRP療法を受けています。(2021年02月11日時点)
明らかに手応えを感じています。

特に、超音波の計測上は内膜の厚みにそれほど変化が無いように見える方でも、着床率が明らかに改善している印象があります。PRPは今後も世界中で注目される治療になるでしょう。

海外でのデータでは治療周期中に2回のPRPを行うことが多いのですが、メディカルパークでは基本的に3回の投与を推奨しています。2回の時に比べて、3回行った方の方が、明らかに内膜の肥厚化が改善し、また着床率も上がっているからです。ただ、問題になるのは、費用です。メディカルパークでは初回が10万円、2回目および3回目が5万円となっています。3回行うとそれだけで1周期中に20万円もの金額がかかってしまうことになります。

この費用ご負担について、若干の朗報です。業者さんとの交渉の結果、3回目の金額を4万円に値引きして頂きました。つまり、今後は、3回で20万円の所が、19万円となります。(2021年2月11日時点)
僅かな金額ではありますが、少しでも治療を受けやすくなればと思っております。

 

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i Chang Y et al. Int J Clin Exp Med. 2015
ii Zadehmodarres S et al. JBRA Assisted reproduction. 2017

 
 

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