医療ブログ

着床前診断について

文責:田中 / 2020年3月27日

2020年1月23日の本欄で、「着床障害」について、着床する側、つまり子宮側について、その検査と治療方法について詳説しました。今回は、着床障害の第2回、受精卵の質についてです。
着床に最も重要なのは受精卵の質です。あくまでイメージですが、着床に関わる因子のウェートは、全体の約80%程度が受精卵の質に依存し、残りの20%程度が受精卵を受け入れる子宮側の問題、という感じだと思います(下図)。


受精卵の質を評価するためには形態学的なグレードの評価を行います。要するに、顕微鏡での見た目の問題です。胚盤胞の質の評価にはGardner分類と呼ばれる方法が使われます。これは「4AB」とか「3BC」とか数字とアルファベットを組みあせてあります。数字は発育の大きさを現し、アルファベットは細胞数を現します。数字が大きい順で、アルファベットはC→B→Aの順でグレードが良いことになります。この分類方法と着床率については明確な相関関係があります。しかし、例えば5AAという見た目としては大変良好な受精卵でも必ずしも着床する訳ではありません。グレードが良い胚でも染色体の異常を含んでいることが頻繁にあるからです。人間の染色体は1番から22番が2対ずつ、そしてX、Yの性染色体が2本で合計46本で構成されます。受精卵は、卵子から23本、精子から23本を引き継ぎ、初めて正常な細胞となるのですが、この分裂の過程で、染色体の数が増えてしまったり減ってしまったりすることがあります。そうした受精卵はどこかで分割を停止したり、分割しても着床しなかったり、あるいは着床しても流産してしまうことが大多数です。
染色体異常の病気の中で、良く知られているのがいわゆるダウン症です。ダウン症という状態は21番の染色体が1本多い状態なのですが、21番が3本ある場合に限って、妊娠継続が可能な場合があるのです(ただし、ダウン症の7割程度は流産すると言われています)。近年、受精卵の細胞を取り出して、その細胞の染色体の分析が可能となってきました。これが、「着床前診断」と呼ばれる技術です(Preimplantation genetic test:以下PGTと略します)。受精卵は透明帯というたんぱく質の膜で覆われていますが、顕微鏡下にこの膜にレーザーで微小な穴を作ります。そしてその穴からせり出してきた細胞の塊から5個から10個程度を採取して、ここから染色体のみを抽出して解析します(下図)。ここで用いられる技術がコロナウイルスの検査で話題になったPCR (polymerase chain reaction)法です。このPCR法で染色体を増幅させ、染色体の数に異常が無いかを調べるのです。


PGTは欧米ではすでにスタンダード化されています。例えば、2年程前にハワイで体外受精クリニックを運営しているお医者さんと話したことがありますが、そのクリニックでは、最初からPGTはパッケージとして全ての受精卵に行うことになっていると言っていました。下図は正常な場合のPGT結果です。右端のX、Y染色体が1本ずつあり、男子を示しています(矢印)。

そして、その次の図がダウン症の場合のPGT結果です。矢印が占めている21番の所だけ、ラインが突出しているのが分かります。これは21番染色体だけが3本あることを示しています。


検査には約3週間程度を要します。また、良好胚盤胞に到達した場合にのみ検査が可能となりますので、希望されても、必ずしも全員が検査が出来る訳ではありません。PGTでは性別まで分かってしまうので、産み分けにつながるのではないか、という懸念もあります。しかし、理論的に考えれば、PGTは着床の窓の検査や慢性子宮内膜炎の検査よりも、本来は優先順位としては、ずっとずっと上に来るべき検査です。「良好胚を何度も移植しても着床しない」、「すぐに化学的流産になってしまう」「自分は着床障害ではないか」など、こうした状態で悩んでいる不妊患者さんに取って、このPGTは大きな希望の光となるはずです。