医療ブログ

EMMA検査と乳酸桿菌

文責:田中 / 2021年10月28日

10月18日投稿の医療ブログの続編です。

三度まじめな事を書きます。

先日の「子宮内細菌フローラ」の続編です。今回はその後の治療についてです。EMMA検査で乳酸桿菌量が90%以下であった場合には、乳酸桿菌のサプリメント製剤で治療を行います。このサプリメントは、元々は腟カンジダの再発予防のために開発されたものです。それを不妊治療に転用するのです。剤型には、経腟錠(腟の中に挿入する錠剤)と経口錠の2種類が有ります。当院のマニュアルでは、まず一定期間腟錠を使用して頂き、その後、経口錠にスイッチします。これまで目立った副作用に遭遇したことはありません。そして経口錠を開始してからある程度経ったところで、再度EMMA検査を行います。

以下は治療結果です。

メディカルパーク湘南でEMMA検査を受けられた患者さんの数が27名。前回のブログでも報告しましたが、乳酸桿菌の割合が90%以下の方が21名(78%)いました。そして、21名全員が一定期間サプリメントを使用して貰いました。このうち10名が治療後に再度EMMAを受けていました。(再検査をするかどうかは患者さんの希望に委ねており、現時点で確認できたのは10名でした。)最近、北山医師(月・火、水・金曜日の不妊外来担当)が結果の解析をしてくれたのですが、その報告を見て、大袈裟では無く目を疑いました。10名全員の平均で見ると、治療前では平均17.0%であったものが、治療後には78.8%まで改善していたのです。実に4.6倍です。再検査を受けた10名のうち、6名(60%)の方で乳酸桿菌率が90%以上に回復していました。また、残る4名のうち、2名(20%)は90%には届かないものの、80%以上に改善していました。中には、0%→82.39%、6.09%→97.6%とか、ちょっと俄かには信じがたいような劇的な改善を見せている事例もありました。

このうち、治療の最後まで転帰を追跡できた1例を紹介します。

Mさんは41歳。神奈川県内の他の不妊クリニックから当院に来られたのが約2年前。その後、人工授精を2回、体外受精を5回行いましたが、一度も妊娠反応が陽性になることは有りませんでした。着床障害の状態だと考え、ERA(これは前回のブログで紹介しました。)に加え、EMMA検査を提案しました。ERA検査では着床の窓のずれは有りませんでしたが、EMMA検査では、乳酸桿菌率はわずか4.07%という結果が返ってきました。Mさんには、マニュアル通りに乳酸桿菌サプリメントを使用してもらいました。そして、約3か月後に再度EMMA検査を施行したところ、96.5%まで上昇していました。そしてその翌月、4回目の胚移植で見事にご妊娠されたのでした。産科部長の岸田医師(月・水・木・金・土曜日の産科外来担当)によれば、胎児発育は順調との報告を受けています。再来月の分娩予定日が待ち遠しく感じられます。

勿論、ただ1例のみで、乳酸桿菌治療の有用性を証明できる訳ではありません。しかし、着床障害に悩む方々にとって、一筋の光になる可能性は十分にあると思います。乳酸桿菌の治療成績については、今後も解析を進めますので、またご報告したいと思っております。

 

*※当記事は田中院長が2019年6月17日付で院長ブログへ投稿した記事です。