医療ブログ

卵管閉塞と言われたら

文責:田中 / 2020年12月18日

卵管閉塞は不妊症の大きな原因の一つです。通常、卵管が詰まっていると、自然妊娠を諦めて体外受精を勧められることが多いのですが、卵管を広げる方法があるのです。それが卵管鏡手術です。正式名称を「卵管鏡下卵管形成術:Falloposcopic Tuboplasty」 (通称FT)と言います。
この手術は大変細いカテーテルを使って卵管を広げていく手術なのですが、非常に熟練の技術を要するため、FTを恒常的に行っている不妊施設は全国でも極めて少ないのが現状です。理由は簡単。手術の難易度です。兎に角難しい。その最大の理由はカメラの径の細さです。カメラの径はなんと0.3~0.5mmしか無いのです。一見針金しか見えないような金属の先端にカメラが装着されています。従って、画素数が荒く、5000ピクセルしかありません。そのカメラで映し出されるモニターを頼りに卵管の中を進めていく必要があるので、視覚だけではなく、カテーテルの進む瞬間の手元の触感も常に研ぎ澄ませていなければなりません。また、厄介な事に、このカテーテル(1本約20万円もします。)がすぐに壊れる。更に厄介なのが、「針金カメラ」(正式名称はFTスコープと言います)の脆弱性です。1本100万円近く(!)するのですが、これが回数を重ねるごとに、画像が所々虫食いになって行って、最終的には全く見えなくなります。どんなに丁寧に使っても10回程度しか持たないのです。乱暴に扱うと、本当に1回ですぐにダメになってしまいます。
しかし、手術手技としては、非常に繊細な技術を要求されますが、患者さんからすれば、日帰りで帰ることが出来るので、体には大変優しい手術です。痛みは一切ありません。麻酔で寝ている間に手術は終わります。
合併症も殆どありません。過去に2名ほど、術後の感染を経験したことがありますが(なぜか、その二人とも術後すぐに妊娠した)、抗生剤投与ですぐに治る程度のものでした。

さて、一番大事なのは治療成績、すなわち妊娠率です。 それが上のグラフです。過去5年間のメディカルパーク湘南でFT手術を受けた患者さん614名の妊娠転帰を追ったものです。このグラフから、FT手術を受けて、自然妊娠を希望された患者さんの55%、つまり二人に一人はその目標を叶えた、ということになります。数年前に同様の手法で妊娠率を算出した時には、累積妊娠率が40%程度だったので、そこから更に成績が進化していることになります。
「卵管が詰まっている」という診断だけで、自然妊娠を諦める必要はありません。

ご興味がある方は2020年11月の第8回YOUTUBE勉強会https://youtu.be/ecGipE6HFMgの動画を是非ご覧下さい。