医療ブログ

ワクチンについて思うこと

文責:田中 / 2021年5月21日

家の近所に小さな公園があります。帰りにいつもその公園を通ります。1年ほど前から、その公園で、ご近所にお住いの一家のお父さんが二人のお子さんと遊ぶ姿を見かけるようになりました。私が、夜遅い時間に帰宅することがあっても、その公園で3人で遊んでいることがあります。お父さんはいつもスーツにリュックを背負っていました。ある時、たまたまそのご主人とお話をする機会がありました。聞くと、奥様が子宮頸癌の闘病中で、大学病院に入院しているとのこと。その間、お子さん達の面倒を自分が見ているのだそうです。いつも、子供を寝かしつけてから在宅の仕事をするので、なるべく遅くまで外で遊ばせて、沢山疲れさせて早く寝て貰うようにしているのだと。頭が下がる思いでした。そして、その後、奥様の主治医が偶然にも私の大学の後輩であることが判明し、私も驚き、後日、電話でその後輩の先生に一報を入れて、「くれぐれもよろしく」と伝えたのでした。

 

その奥様がつい先日他界されたそうです。3歳と5歳のお子様を残して、とても無念だったと思います。

 

翻って考えてしまうのは、子宮頸がんを予防するHPVワクチンに関する報道の問題です。

 

2009年にワクチンが初めて認可された当初、マスコミは「絶対に必要なワクチンなのに、なぜ公費で助成しないのか」と政府を突き上げました。その当時、私はまだ新聞を取っていたのですが、ある日、読売新聞に「頸癌ワクチンを公費にせよ」という社説が掲載されました。頸癌のワクチンが全国紙の社説にまで取り上げられたことに、大変驚きました。そして、そのすぐ後に、正式に無償化が決定しました。ところが、2013年3月18日に、朝日新聞がワクチンの薬害を報道し始めたのです。

 

ワイドショーでも、被害者がモザイク入りで登場しました。ワクチンに対する批判が世の中を席巻しました。そして、その3か月後に厚生労働省はワクチン接種の勧奨を取りやめました。2016年に発表された「Clinical Infectious Disease (臨床感染症学)」という英文誌に掲載された論文によれば、この朝日新聞の記事がHPVワクチンの副反応やリスクが喧伝される「発端」であると指摘しています。(世界的な医学論文にまで登場してしまっている朝日新聞・・・)また、2020年には、大阪大学のグループが「Nature Reserch」という英文誌に、日本のHPVワクチン接種が激減した影響で、将来の一定期間に子宮頸がん患者が約1万7千人、死亡者が約4千人増えるとの推計を、やはりしっかりとした論文で発表しています。

 

現在、新型コロナワクチンの接種が始まろうとしています。

私は、今後の展開は、例えば、こんな感じになるんじゃないかと思っています。最初の100人に打っても何も有害事象は起こりませんでした。だから1,000人に打ちました。でも誰も何ともありません。ところが、10,000人に打ったら、そのうち一人に有害事象が出ました。その瞬間、またメディアがその1例を大々的に報道します。「コロナワクチンで重篤な有害事象か?」とかいう見出しをけて。そして例によってワイドショーも追従。その被害者とされる人をモザイク入りでテレビに写します。それを見た視聴者は縮み上がります。(産婦人科医の私ですら頸癌ワクチンの薬害を特集したテレビを見た時は、心底ビビりましたから。)そして、今度は接種希望者がどんどん減って行く。それでマスコミは、今度は再び、感染爆発だの医療崩壊だの騒ぐ。

 

有害事例が稀であればあるほど、ニュースバリューは有る訳で、そして、その1例に国民は踊らされることになる。この構図を何とか出来ないものだろうか、と切に思います。例えば、責任ある行政機関がデータを取って、それを期限を決めて公開する。その代わりに、マスコミには勝手な報道は一切させない、とか。医療の世界では、病気や有害事象の発生率を論じるときに、悲惨な事例を何十例紹介しても、全体の中での発生率を見なければ、何の価値も無いし、却って誤解を招くので大変危うい。ところが、その危うさに気付かないのか、あるいは気付いても無視なのか、マスコミは、悲劇性のみを強調する。

 

日本のマスコミは、コロナワクチンでも頸癌ワクチンの失敗をまた繰り返すのでしょうか?

とても心配です。

 

※当記事は2021年2月3日付の田中院長amebaブログより参照。

生殖医療専門医・内視鏡手術技術認定医 田中雄大のブログ (ameblo.jp)