医療ブログ

子宮内膜症合併妊娠について②

文責:田中 / 2019年11月21日

今回は、子宮内膜症合併不妊の「その②」です。
メディカルパークでは年間300件以上の腹腔鏡手術を行っています。このうち、子宮内膜症の患者さんが占める割合は丁度50%程度です。(図1)は、これら子宮内膜症の患者さんのうち、不妊治療を同時並行で行っている方の割合です。子宮内膜症で手術を受ける患者さんの2人に1人が不妊症を合併している、という事になります。

次の(図2)は、当院の内膜症手術後の妊娠率を、Kaplan-Meier法という悪性腫瘍の生存曲線と同様の手法で表したものです。この図から、メディカルパークの子宮内膜症手術後の3年間の累積妊娠率が58%であることが分かります。一方、2010年に日本産婦人科学会が編集した「子宮内膜症取り扱い規約 」という内膜症の治療ガイドラインの中では、子宮内膜症合併不妊治療患者の3年間の累積妊娠率は36%と記載されています。何故にこれほど治療成績に差が生じるのでしょうか?それは、メディカルパークには、子宮内膜症合併不妊症に対する治療の選択肢が複数存在するからです。その選択肢とは、すなわち、手術療法と体外受精(ART )です。

当院の治療成績をもう少し細かく見ていきます。まず(図3)を見て下さい。これは手術後に自然妊娠 だけに限った治療成績です。このように、手術で内膜症の病変を除去すると、確実に自然妊娠の治療成績が向上することは広く知られています。ただ、ここで留意が必要なのは、「手術の効果は半永久的では無い」という事です。図で見て頂くと分かるように妊娠者は1年以内に集中します。これは手術後の「ゴールデンタイム」と呼ばれ広く知られた現象で、内膜症の手術後には、このゴールデンタイムの期間中に自然妊娠を目指すことが大変重要になるのです。

次の(図4)は、術後の妊娠を、体外受精に依るものだけに限った場合の治療成績です。累積で80%近くの方が妊娠していることがお分かり頂けるかと思います。比較の為に、同時期に、内膜症を持っていない患者さんを対照群として重ね合わせてみました。両者の間には殆ど差が無いことが一目瞭然で判ると思います。このように、子宮内膜症を持っていても、手術と体外受精を医駆使していけば(少なくともメディカルパークでは)、内膜症を患っていない一般の方々と全く同じ成績が期待出来るのです

腹腔鏡手術と体外受精を組み合わせる方法は、ある意味、メディカルパークのお家芸と言えます。そして私たちはこの方法を「Hybrid ART 」と呼んでいます。このHybrid ARTを、もっともっと全国に広めて行ければと思っています

子宮内膜症の病態は本当に多岐に渡ります。卵巣に出来るチョコレート嚢腫、子宮に出来る子宮腺筋症のほかに、最近は「希少部位内膜症」と言って、肺や皮膚などにも出来ることが分かって来ています。また子宮内膜症の手術ほど、術者によって、その完成度が変わる手術も無いように思います。子宮内膜症があると、腹腔内に臓器同士の癒着を引き起こします。特に多いのが腸管と子宮の間の癒着です。これを不用意に剥離すると、腸に穴が開いてしまい、重篤な後遺症を残すことがあります。そのため、こうした癒着があっても、「触らぬ神に祟りなし」ということで、その部分には手を付けずに手術を終わらせてしまう病院もまだまだたくさんあります。しかしながら、この癒着組織の中には、相当の頻度で子宮内膜症組織が潜んでいます。メディカルパークの自験例のデータだけでも、こうした癒着組織の病理組織検査で内膜症組織が見つかる頻度は90%を超えています 。つまり「腹腔内の癒着に目をつぶる」ことは「内膜症組織を取り切らずに不完全なまま手術を終了する」こととある意味同義なのです。私たちが、たとえ腸管損傷などのリスクがあっても徹底的な癒着剥離に拘るのはこのためなのです。

以上、腹腔鏡手術と体外受精を組み合わせながらの子宮内膜症合併不妊の治療方法について、ご紹介しました。「子宮内膜症、恐るるに足らず」、というのは言い過ぎかもしれませんが、どうぞ過度に悲観しないで下さい。内膜症の痛みは辛いとは思いますが、色々な方法を駆使すれば、光はあるはずです。

さて、次回は「卵巣年齢」についてご紹介したいと思っています。第1回目から2回目の上梓まで、2カ月ものブランクを作ってしまった事を反省しつつ 、なるべく急ぎで取り掛かりたいと思っております。

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金原出版「子宮内膜症取り扱い規約 第2部 治療編・診療編」(2010年)より引用
ART(アート)とはArtificial Reproductive Technologyの頭文字で、体外受精の略称。不妊専門クリニックに「〇〇アートクリニック」という名前がついていることも。
「自然妊娠」とは、タイミング療法による妊娠と人工授精による妊娠を指します。
このデータはメディカルパーク独自のものですので、どの施設にも全く同じことが当てはまる訳ではありません。
「Hybrid ART」という名称は、元々は、慶應義塾大学の阪埜浩司先生が、メディカルパークの不妊治療を見ていて命名された造語です。
田中雄大「子宮内膜症に対するハイブリッドART」日本エンドメトリオーシス学会誌 2016;37:72-76より引用
田中雄大「子宮内膜症合併不妊の取り扱いについて」日本エンドメトリオーシス学会誌 2018;39:132-138より引用。
「早く医療ブログを書かなければ」と思えば思うほど、現実逃避的にくだらないアホなブログをアップし続けて現在に至る。次回も同じことが起こる可能性大。
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