医療ブログ

「禁煙指導」

文責:田中 / 2020年1月23日

以前、病院ホームページへ掲載していた記事を再掲させていただきます。少しでも皆様の参考になれば幸いです。

データや状況など当時のものとなっておりますのでご了承ください。(2010年4月掲載分)

 

湘南IVFクリニックでは、タバコを止めたい、と希望している患者さんに対して、禁煙指導外来を行っております。保険診療としての禁煙指導外来を始めるためには、認定施設として、県からの認定を受けなければなりません。そのためには、色々な規定があり、これらすべてをクリアするのが結構大変でした。結局、準備期間に半年近くを要し、実際にスタートしたのは、今年の1月からでした。
その中で、禁煙補助薬は、禁煙カウンセリング等とともに、禁煙指導の柱となります。
2週間ほど前の事です。この禁煙補助薬を製造販売している、外資系の大手製薬会社の方が面会に来られました。聞けば、湘南IVFクリニックからの禁煙補助薬の発注量が藤沢市でトップになっているということでした。禁煙といえば、やはり呼吸器科などの内科が専門だと思いますので、婦人科単科の、しかも病院では無く、クリニックが1位というのは、非常に奇異な感じを受けました。
1週間ほど前、診療終了後に、その彼がまたやって来ました。
「先生、このクリニックが、処方量で神奈川県内で1位となっております!」
薬の処方量の多寡は、製薬会社にとってはもちろん非常に大事な問題でしょうが、我々現場の医師にとっては、何の意味も無い数字です。ですので、「はあ、そうですか」という感じで受け流しました。
そして、昨日、その彼が三度やって来ました。今度は何故か、営業所の所長を同行しておりました。その彼が、部屋に入ってくるなり、頬を多少紅潮させながら言いました。
「先生、このクリニックの禁煙補助薬の処方量が、とうとう全国5位です!ありがとうございます!今日は上司と共に、お礼のあいさつに伺いました。」
これには、さすがに仰天してしまいました。大学病院、総合病院、呼吸器科専門クリニック・・・、禁煙指導ができる施設は、日本全国星の数ほどあるはずです。その中で何故ウチが・・・、と訝しささえ覚えます。
舘ひろしが「禁煙宣言」と書いた習字を持って、出演しているCMを見たことがある方も多いはずです。にも関わらず、意外と浸透していないものなのでしょうか?
禁煙指導外来を始めたのは、不妊治療を行っている患者さんの中で、喫煙習慣がある方が多いことに、頭を悩ましていたからでした。例えば、過去3カ月の初診患者で調べてみると、男性では34.1%、女性では15.4%に達していました。喫煙が肺がんや脳卒中のリスクを上げることは、誰でも知っていても、タバコが不妊の原因になりうることには、ほとんどの方が無関心であることに、大変驚きました。
喫煙と不妊の関係については、これまで様々なデータが出されています。女性では、卵子の質の低下、男性では精子濃度の低下など、喫煙は、明らかに妊娠率を下げます。つまり、禁煙は、今すぐにでもできる、最も手軽な不妊治療なのです。
更にもう一つ、驚くべきことがあります。
禁煙補助薬を使用しても、禁煙の成功率は全国平均で約65%程度と報告されています。ところが、湘南IVFクリニックでのデータでは、成功率は80%を超えており、禁煙に失敗した方は、これまで、数えるほどしかいません。前述の営業担当の人には、「これほど成績が良い秘密を教えてください。」などと言われます。秘密などありません。不妊治療をしておられる患者さんは、皆さん必死です。私たちもスタッフも、全員が必死です。子宝地蔵、子宝の湯、子宝グッズ、サプリメント、その他もろもろにすがる方もたくさんおります。また、治療が長くなればなるほど、お金もかかってきます。
禁煙補助薬処方量、全国第5位、禁煙成功率80%という数字からは、妊娠を希望される患者さんカップルの、切実なる思いが垣間見えます。それ故、製薬会社の営業担当者の無邪気な笑顔にも、逆に身が引き締まる思いがしてくるのです。