医療ブログ

着床障害に対する新しいアプローチ

文責:中川・田中 / 2020年1月23日

良好な胚(多くの場合は胚盤胞)を複数回移植しても妊娠に至らない状況は、「着床障害」と呼ばれます。着床障害は、不妊治療専門医が最も頭を悩ます問題です。患者様も大変つらい思いをされます。胚のグレード評価では「4AA」とか「3BB」とか、とても良好な胚だと説明されていれば、期待が高まるのも当然です。にも拘わらず何度移植しても着床しない、あるいは化学流産で終わってしまう、という状況が繰り返されると、治療を行っているご夫妻は当然大きなストレスを抱え込むことになります。
今回は、こうした着床障害に対するメディカルパーク湘南の取り組みをご紹介します。(長くなるのでまた2回シリーズになります。)
まず、着床障害の要因。二つに大別されます。一つ目が、移植される胚側(要するに卵側)の要因。形態学的(要するに、「見た目」の事です。)に良好な胚でも、染色体の分析をすると、染色体が1本足りない、あるいは1本多いなど、の致命的な異常を含有していることが相当の頻度有ることが知られています。いわゆる「ダウン症」というのも、この染色体の数の異常が原因です。「外見は良くても、中身はダメ」、っていうパターンです。
そしてもう一つが胚を受け入れる子宮側の要因。染色体的にも異常は無く、見た目、つまり形態学的にもとてもきれいな胚盤胞を複数回移植しても上手くいかない場合、卵を受け入れる子宮に問題があるのではないか、と考えます。子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどが存在すると、着床の妨げになり得るので、メディカルパークでは事前に必ず検査を行い、必要であれば子宮鏡下や腹腔鏡下に積極的に切除します。しかし、こうした物理的要因(つまりは「見える原因」)が無くても着床障害が発生することがあります。
胚側の染色体異常については、第2弾に回します。今回はこの原因不明の着床障害の中、子宮側の問題について、詳説します。
妊娠率を妨げる子宮側の「見えない原因」として、近年、注目されているものが2つあります。それが「着床の窓」と「慢性子宮内膜炎」です。子宮内膜はいつでも胚を受容する(つまり着床する)機能があるわけではなく、受け入れ可能な時期は厳密に決まっています。イメージとしては、子宮内膜には胚を受け入れるための窓があり、それが開いたり閉じたりしているっていう感じでしょうか。それを「着床の窓」と呼びます。この着床の窓ですが、開閉のタイミングがずれている一般的な場合よりもずれている人がいることが判ってきました。このずれを遺伝子検査の手法で確認するのがERA(endometrial receptivity analysis)検査と言われる検査です。(詳細は2019年5月30日付のブログをご参照下さい。https://ameblo.jp/tanaka–yudai/entry-12534600850.html)
もう1つが慢性子宮内膜炎です。近年の研究から、慢性子宮内膜炎は、着床不全の原因となり得ることが明らかになってきました。一般的に慢性子宮内膜炎は、以前は高齢者に多く発症し、慢性的な骨盤痛や、不正出血を起こすものと思われていました。しかし最近の報告では、慢性子宮内膜炎は若い女性にも発症し、かつ移植失敗を繰り返す方の14~67.5 %に多く存在することがわかってきました。さらに、これを治療することで着床率の改善が期待されることも明らかになってきました。
もともと子宮は無菌の臓器と考えられてきましたが、実際は乳酸桿菌(Lactobacilli)という常在菌がメインとなって、バランス良く定着しています。ちょうど、乳酸桿菌が悪いばい菌から子宮内膜を守っているイメージです。この乳酸桿菌の割合が低下したり、あるいは、大腸菌などの雑菌が繁殖したりすると、細菌のバランスが崩壊し、結果として着床率が低下することになるのです。慢性子宮内膜炎の検査には以下の4種類があります。
① 子宮内膜マイクロバイオー厶検査
子宮の細菌環境が胚移植に最適な状態であるかどうかを検査します。子宮内腔には乳酸桿菌(Lactobacilli)という常在菌がおり、この菌共生バランスが崩れると、不妊治療の成績に影響すると言われます。EMMA *(Endometrial Microbiome Metagenomic Analysis)検査と呼ばれます1)。
② 感染性慢性子宮内膜炎検査
子宮内の細菌の中で特に慢性子宮内膜炎(CE)の原因となる細菌を検出します。ALICE*(Analysis of Infectious Chronic Endometritis)検査と呼ばれます。
*EMMAとALICEは、必ずセットで同時に行います。費用は両方併せて約30,000円(保険適応外)です。検査結果が出るのに、約3週間程度要します。
③ 子宮鏡検査
慢性子宮内膜炎があると、子宮内膜の色調の変化(子宮の内腔表面にイチゴのような斑点が多数みられる。)や、微小ポリープなど、子宮腔内に特徴的な所見を示すようになります2)。子宮鏡を使って、慢性子宮内膜炎の兆候の有無を判定します。この検査は保険適応です。下図は実際の慢性子宮内膜炎の患者さんの子宮鏡の写真です。ストロベリースポットと呼ばれる斑点のような模様が一面に広がっています3)。


④ 子宮内膜組織診
慢性子宮内膜炎があると、子宮内膜の基底層付近に形質細胞(リンパ球の一種)が発現することが分かっています。排卵前に子宮内膜を採取して、形質細胞のみに発現する「CD138」というタンパク質の発現の有無を免疫染色で確認します。検査は外来で行いますが、ある程度の痛みを伴います。費用は約12,000円(保険適応外)です。検査結果が出るのに、約2週間程度を要します。下図は実際のCD138による形質細胞の免疫染色の結果です。茶色くなっている部分が形質細胞です3)。


慢性子宮内膜炎の確定診断には④の子宮内膜組織診が最も有用だと言われています。しかし、この子宮内膜組織診は、患者さんの内膜の状態、検査を施行する医師の技量・手技の違いなどによって、結果が変動する可能性があります。そこで、メディカルパークでは、慢性子宮内膜炎の正確な診断を行うために、上記すべての検査を集学的に行うことを推奨しています。
慢性子宮内膜炎と診断された場合、抗生剤を用いて治療を行います。具体的には1st lineとしてドキシサイクリン、2nd lineとしてシプロフロキサシン+メトロニダゾールの内服を行います。1st line後の治癒率は94%(29/31)で、2nd line後の全体的な治癒率は100%(31/31)と報告されており、概して治癒しやすい疾患と言えるでしょう4)。
実際に慢性子宮内膜炎の治療を行なった場合の効果を示します。2回以上の移植を失敗した方に対して慢性子宮内膜炎の検査を実施し、診断、治療、再評価を行なった場合、着床率が3.24倍、臨床妊娠率が6.81倍、出生率/妊娠率が4.02倍にまで改善すると報告されました5)。
また、ALICE検査で、病原菌が同定された場合も、その菌に感受性がある抗菌剤を投与します。さらに、EMMA検査で乳酸桿菌の割合が90%以下であった場合には、乳酸桿菌を増加させるサプリメントを使用して頂きます。(当院のデータではサプリメント使用後には、80%の方が正常の状態に戻っています。)(詳細は2019年6月10日付https://ameblo.jp/tanaka–yudai/entry-12535860152.html、2019年6月17日付https://ameblo.jp/tanaka–yudai/entry-12535860847.html のブログをご参照下さい。)
以上から、着床失敗を繰り返す方にとって慢性子宮内膜炎を診断、治療、再評価を行うことは、着床から出産までの経過を改善する可能性があり、非常に有用な検査と言えます。こうした検査を組み合わせながら治療を勧めることで妊娠率の向上が期待されるます。

1) Moreno I, et al. Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure, American Journal of Obstetrics & Gynecology 2016
2) Cicinelli E, et al. Endometrial micropolyps at fluid hysteroscopy suggest the existence of chronic endometritis. Hum Reprod 2005
3)  Bouet PE, et al. Chronic endometritis in women with recurrent pregnancy loss and recurrent implantation failure: prevalence and role of office hysteroscopy and immunohistochemistry in diagnosis. Fertil Steril 2015
4) McQueen DB, et al. Chronic endometritis in women with recurrent early pregnancy loss and/or fetal demise. Fertil Steril 2014
5) Vitagliano A, et al. Effects of chronic endometritis therapy on in vitro fertilization outcome in women with repeated implantation failure: A systematic review and meta-analysis. Fertil Steril 2018