医療ブログ

難治症例に対する腹腔鏡手術について

文責:田中 / 2020年2月12日

通常の子宮の大きさは鶏の卵程度の大きさです。それが、今回の症例ででは胸のあたりまで子宮筋腫が発育してしまっていました。

この患者さまのご希望は、二つ。お腹を切らずに腹腔鏡で手術をして貰うこと、そして子宮を残して、筋腫だけ取って貰うこと。

断ろうかと迷いましたが、引き受けました。腹腔鏡はお腹に開けた4つの穴だけで、全ての工程を完結させる手術です。筋腫を取ったあとは、機械で砕く作業もあります。手術はトータルで6時間以上かかりましたが、何とか完遂。患者さんの願いを叶えてあげることが出来ました。取れた子宮筋腫の重量を測ってみて仰天。3.9kgもありました。それまでの最重量症例が2.4kgだったので、自らの記録を大幅に更新することになりました。
別に自分の手柄をアピールする気はありません。
このご時世、リスクを負ってまで難しい手術を引き受けたものの、合併症を起こしてしまえば、例えベストを尽くしたとしても、医療者自身も様々な社会的リスクを背負うことに成り兼ねません。しかし、私はその風潮に過度に迎合したくないといつも思います。医者が頑張れば、何とかなることも多いのです。子宮筋腫は良性疾患です。良性疾患の為に、わざわざ大きくお腹を切る必要は無い、と言うのが私の持論です。

随分前のことですが、先輩医師に、「お前、なんでそんなに腹腔鏡に拘るんだ?お腹大きく切って簡単に終わった方が楽じゃないか。ビキニの水着着るような人ならいざ知らず、傷が大きくなったって、患者さんはお前が気にするほど傷の大きさなど気にしないんじゃないか?帝王切開の傷だって同じことだろう?」と言われたことがあります。

その時は返答に窮してしまいました。

それから色々と自問自答しました。
そして私が考え出したロジックはこうでした。
社会的貢献というのは人間の本能的欲求である。開腹手術と腹腔鏡、どちらが優れているか。腹腔鏡の場合だと開腹に比べて患者の職場復帰は約半分に短縮されることはエビデンスが証明している。患者の職場への復帰が早くなればなるほど、その分、その人は社会に貢献することが出来る。つまり、オレの腹腔鏡手術は間接的に社会貢献に奉じているのだ。また、更に自問自答しました。いや、それはその人が仕事をしていることが前提だろ?専業主婦だったらどうなんだ?専業主婦なら職場復帰なんか関係無いじゃないか。いやいや、専業主婦こそ、家庭では内助の功で旦那さんを全力でサポートしているはず。だから全力で家事に取り組むまでの時間が短縮されればされるほど、その患者さんの夫は家庭の事を気にせずに社会で活躍できる。つまり社会貢献できるのだ。ほら、やっぱりオレの腹腔鏡が社会貢献に繋がってるじゃないか!

ずっと自分にこう言い聞かせてきました。
こういうのを詭弁、あるいは屁理屈と言います。

この歳になって初めて公に認められることがあります。
私はただ単純に外科手術が好きなだけなのです。
中でも職人的な技術が求められるこの腹腔鏡手術が大好きです。だからやり続けているだけ。
自分の執刀症例数は、全国でも有数の部類に入るでしょう。簡単な手術もあれば、今回の3.9kgなんていう究極に難しい症例もあります。でも一人として人間の体は同じではありません。失敗もあります。その、「人間の体」に我々は毎日学ばせて貰っています。患者さんも職員も、私の、いや、このメディカルパークの医者全員の腹腔鏡手術の技術を褒めてくれます。でも私も、私に続く若手達も、皆もっともっと上手くなれるはずです。昨日よりも今日、今日よりも明日、もっともっと成長しなければならないのです。体力はどんどん衰えて行きます。でも日々新しい発見があります。

私は好きだから腹腔鏡手術をやっているだけ。
社会貢献なんぞのお題目は二の次の、ただの手術バカ。
それでも、こうした難治症例の術後に患者さんから良く頂く言葉があります。
「手術してから、お腹が凹みました。お陰で洋服のウエストが合わなくなって、買い替えなくちゃいけなくて困ってます。」
この言葉こそ、私にとって最大の賛辞です。だって、皆さん「困ってます」って言いながらめちゃくちゃ嬉しそうに笑っていますから。

私が手術に没頭できる環境を作ってくれる他の医師、看護師、事務方には多大な感謝を。
そして、この病院を信用して来てくださる患者さんにも多大な感謝を。