医療ブログ

卵巣年齢の検査について

文責:田中 / 2019年12月23日

Bさんは35歳。結婚が決まったことをきっかけに、近所の産婦人科でレディースドックを受けたそうです。するとそこで「卵巣の年齢がもう閉経に近いので、今すぐに体外受精をするしか無い」と言われたそうです。その結果に衝撃を受けて、メディカルパーク湘南を受診されました。最近、Bさん以外にも、同様のケースで来院される患者さんがたくさんいます。そうした患者さんは、皆一様に、「卵巣の年齢が凄く悪いと言われた」と仰り、大変な不安を抱えておられます。

「卵巣の年齢の検査」は「抗ミュラー管ホルモン」という血中ホルモン値で測定します。「アンチミュラー管ホルモン」と呼ばれることもあります。業界的には、頭文字を取って「AMH」と略していますので、以下、AMHと記します。ここ数年、不妊治療の現場ではこのAMH検査が爆発的に普及しています。1回の採血で卵巣の年齢が判るので、非常に有用性の高い検査です(ただし、保険適応にはならないので、検査には5,000~10,000円程度かかる場合が多いです)。メディカルパークでも不妊治療を御希望されて受診された患者さんには、初診時に必ず測定しています。

さて、冒頭のBさんのケースです。彼女は検査データも持参していました。彼女のAMH値は2.35 ng/mLという値でした。私は内心、「又か」と思いました。というのは、この2.35という値は、メディカルパーク湘南では、「あなたの卵巣年齢は大体35歳前後です」、と説明している値なのです。そうすると、Bさんはその当時35歳でしたから、卵巣年齢は実年齢相当となり、なんら問題無いことになります。実はこういうケースがたくさんあるのです。すなわち、他の病院で、卵巣年齢が老化しまくっていると言われて、メディカルパーク湘南で再検査してみたら、問題なかったというパターンです。

どうしてそういうことが起こるのでしょうか。
その理由はおそらくこうです。

果たして、この仮説は正しいでしょうか?
今回、それを検証してみました。2016年7月1日~2019年8月23日の間にメディカルパーク湘南でAMHを測定した合計2103人の患者さんのデータを集計し、それを年齢別に分けました。そして、そこに、検査会社大手の(株)エスアールエルの協力を得て、一般人口のAMHの値を重ね合わせました。するとどうでしょう、予想通り、当院におけるAMH平均値は、一般人口の平均値よりも明らかに低かったのです(下図)。30代では大体0.2~0.4程度ですが、20代では2以上の差がありました。(ちなみに、45歳以上で逆転するのは、この年齢で不妊治療ができる人は、卵巣機能が非常に若い人に限られてしまう事が原因だと思われます。)やはり、仮設通り、この平均値の差が解釈の違いになっていたのです。


(図1)一般人口とメディカルパーク湘南における各年齢群のAMH値

でも、これは却って名誉な事かも知れません。難しい患者さんばかり集まるという事は、解釈を変えれば、それだけの期待が我々の肩にかかっているという事に他ならないからです。

最後に、またBさんの話に戻ります。Bさんには、まず、「ウチの基準によれば、あなたの卵巣年齢は実年齢相応ですよ」と説明し安心して頂きました。そのうえで、体外受精は費用のこともあるので、人工授精から試してみることを提案しました。そして、2回目の人工授精で妊娠されました。Bさんは体外受精を回避して、より安価な自然な方法で妊娠出来の多です。

その後は私の手を離れて、今は産科の岸田先生が診て下さっています。
確か、来年の桜の時期が予定日だったはずです