医療ブログ

無痛分娩について

文責:田中 / 2020年1月6日

メディカルパークの産科では無痛分娩を積極的に取り入れています。無痛分娩とは、正しくは、硬膜外麻酔を併用した分娩方式の事を指します。硬膜外麻酔とは、背骨の硬膜外腔という所に、細いカテーテルを留置し、其処に麻酔薬を持続的に注入することで痛みを取る方法です。硬膜外腔の近くには下半身の神経の大元が集まっており、ここに麻酔を効かせることによって、子宮の痛覚を抑え込むことが出来ます。この無痛分娩ですが、硬膜外腔へのカテーテル留置の技術や麻酔薬の投与量調節に熟練が必要なため、医療従事者の間でも敬遠される傾向にあります。特に、助産師や看護師の中には、「無痛分娩は危険だから止めた方が良い」というイメージがいまだに根強く残っています。
さて、当院では1年位前から、産科の岸田先生が音頭を取って、この無痛分娩を帝王切開時にも導入しています。通常、帝王切開の場合は「腰椎麻酔」と言って、脊髄があるくも膜下腔に直接麻酔薬を注入します。これで痛みは完全にシャットアウト出来るのですが、問題は、脊椎麻酔は数時間で効き目が完全に切れてしまうことです。帝王切開ではお腹の皮膚を10cm以上切開します。当然、麻酔が切れてしまった後の患者さんの痛みは相当なものです。しかし、腰痛麻酔に加えて、硬膜外麻酔を併用してあげると、術後の痛みを可能な限り抑えられます。この手技は、胃癌や子宮癌など、大きな開腹手術が必要の際に取られる方法ですが、それを当院では帝王切開にも応用しています。
帝王切開への硬膜外麻酔の導入については、当初は、スタッフの間でも、「そこまでやる必要があるのか」という感じで、半信半疑的な意見も多かったと聞きます。何か新しい事を取り入れる際には、必ず周囲からの批判や抵抗が付き物なのです。
しかし、その効果は劇的でした。それまでは、帝王切開後の患者さんは、点滴架台を杖替わりにして、苦悶の表情を浮かべながら這うようにして歩いている、というのが日常の光景だったのですが、硬膜外麻酔も併用するようになってからは、術後1日目からケロッとして病棟内を闊歩する姿が見られるようになったのです。ほぼ普通分娩の方と全く変わらないのです。私も正直、「ここまで違うのか」と大変驚きました。まさに「目から鱗」。
現在では、余程の緊急事態でも無い限り、ほぼ全ての帝王切開で硬膜外麻酔を併用するようになっています。それによって、患者さんのQOL(生活の質)は格段に改善するようになりました。特筆すべきは、メディカルパークでは私も含め、分娩に関わる全ての常勤医師が無痛分娩の技術を習得していることです。そしてその結果、ほぼ24時間体制で無痛分娩対応が可能となっています。(追記ですが、経腟分娩(要するに通常のお産)の場合も、無痛分娩を希望された方と希望されなかった方では、出産後の元気さが全然違います。)
私自身も、「分娩は痛くて当然」という古い因習から抜け出せずにいた事を認めざるを得ず、反省することしきりです。無痛分娩の威力を見せつけられた職員は、私も含め、誰もが無痛分娩を絶賛するようになり、今では、「2020年は全分娩数の40%を無痛分娩で対応できるようにしよう」と目標を立てるまでになっています。
無痛分娩、メディカルパークの新たな顔になりそうです。