対談・顧問吉村先生

当法人の顧問である吉村泰典先生と院長田中の対談を当院4階「カフェ・ザ・パーク」にて行い、不妊治療、病院の在り方、今後の医療の可能性や展望などについて語り合いました。

吉村 泰典

プロフィール

岐阜県出身。1975年慶應義塾大学医学部卒業。米国ジョンズホプキンス大学留学、杏林大学医学部産婦人科助教授などを経て、1995年慶應義塾大学医学部産婦人科教授。臨床現場、医学教育の傍ら、日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長、日本産科婦人科内視鏡学会理事長、その他数多くの学会理事など学会要職の他、厚生科学審議会専門委員、法制審議会委員、内閣府総合科学技術会議専門委員、文部科学省科学技術・学術審議会専門委員、日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会委員を歴任。
これまで3千人以上の不妊症、5千人以上の分娩など数多くの患者の治療を担当。福島県立大野病院問題の解決、HPVワクチンの公的助成や特定不妊治療費助成制度の確立、周産期医療従事者の待遇改善、出産育児一時金や妊婦健診の公的助成の増額など、わが国の周産期医療の危機を救い、女性の健康力増進に尽力、貢献されて来た。「生殖医療の未来学―生まれてくる子どものために―」など、生殖医学に関する著書多数。
2019年1月より、医療法人社団桐杏会 顧問就任。

吉村

メディカルパーク湘南 院長 田中 雄大

プロフィール

東京都出身。1997年慶應義塾大学医学部卒業。在沖縄アメリカ海軍病院、川崎市立病院、大和市立病院など臨床現場を多数経験。慶應大学医学部時代は吉村泰典先生に師事。2004年慶應義塾大学医学部医学博士取得。2009年不妊治療専門の湘南IVFクリニックを開設。2012年に産婦人科専門病院として設備を一新し、メデカルパーク湘南に改名。腹腔鏡手術と不妊治療を融合(ハイブリッド)し、これまでに10,000人以上の子宮内膜症患者を妊娠に導く、不妊治療と内視鏡手術のエキスパート。日本産婦人科学会専門医。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。
院長からのメッセージはこちら

田中

田中:吉村先生、本日はわざわざ当院までお越しいただき大変ありがとうございます。開院当初から、慶應大学の恩師である吉村先生を当院にお招きすることは宿願であったため、この日を迎えることが出来て本当に光栄です。また、当院の顧問としてご就任いただきましたことにつきまして、あらためてお礼申し上げます。

吉村:田中先生が藤沢市で開業されたことは聞き及んでいました。噂どおり立派な病院で、大変感心しました。私もたくさんの産婦人科医を育てて来ましたが、このように医学部時代の弟子の病院を訪れることは、私の楽しみのひとつです。

田中:医学部時代、私たち学生にとって先生は雲の上の存在でした。臨床実習ではなぜか私がよく質問を受け、きちんと答えられないと「総武線に乗って家に帰り給え」と叱責を受けて、ひたすら小さくなっていたことを思い出します。

吉村:そんなこと、あったかな(笑)お招きいただいたから言うわけではないけど、田中先生は優秀な生徒だったと記憶していますよ。

田中:ありがとうございます。吉村先生にそのように言っていただけると今後の励みになります。ますます精進しようと思います。

田中・吉村

吉村:せっかくなので、院内を隈なく拝見しましたが、建物だけでなく、設備も立派で驚きました。言い方は悪いが、郊外の有床診療所のレベルを超えているのではないかな?
何か、田中先生なりの思いがあったのだろうと感じました。

田中:私は以前より、不妊で悩む患者さんたちを、最高の技術と環境をもってお迎えしたいと考えていました。画一的な不妊治療にとどまらず、一人ひとりの患者さんの症状や状態、希望に合わせて幅広い提案や治療が提供できるクリニックにしたいとの思いが強かったのです。そのためには、医師としての知識や技量はもちろん、内視鏡技術や医療機器など、すべてにおいて妥協したくなかった。そう思って準備をしていたら、このような環境になりました。

吉村:なるほど、田中先生らしいね。そのあたりのこだわりについてもう少し詳しく聞かせてください。

田中・吉村

田中:当院の特徴は「不妊治療と内視鏡手術の融合」、すなわちハイブリッドです。当院は、湘南IVFクリニックとしてスタートしました。開院当初は無床クリニックであったため本格的な内視鏡手術が出来ず、手術適応によってその後の不妊治療に目覚ましい効果が期待できる患者さんに対しても、他院での手術を勧めるしかありませんでした。そのような方たちの中には、不妊治療自体を断念する患者さんも多くいらっしゃいました。手術から不妊治療までひとつの病院、クリニックで同じ医師が担当することは、必ず患者さんのメリットにつながる、との思いが日に日に強くなって来ました。

吉村:それで、内視鏡手術までできる有床クリニックにしようと。先生は以前よりハイブリッドの重要性を強調されていましたね。不妊領域にハイブリッドの概念を導入されたのは、先生が初めてでしたね。

田中:はい。それも、大学病院や総合病院にも負けない、超一流の技術と設備を提供できるクリニックにしたかったのです。本当にお子さんを望んで恵まれない方たちにとって、不妊治療は、藁にも縋る思い、なのではないでしょうか。その方たちに対して、「私にできるのはここまで」と言いたくなかったのです。

吉村:さらに、お産までできる施設になっていますね。現在の不妊クリニックは内視鏡手術ができる施設は増えてきましたが、お産までできるところは本当に少なくなりました。

田中:苦労して粘り強く通院される不妊治療の患者さんとお会いしていると、自然と「この患者さんの赤ちゃんを取り上げたい、赤ちゃんを抱っこして喜ぶ笑顔を見たい」と思います。これは産婦人科医の「サガ」のようなものでしょうか(笑)。また、「せっかくここまでお世話になったのなら、先生の病院で産みたい」と仰っていただけた多くの患者さんの声も背中を押してくれました。

吉村:少子高齢化は現代の日本が抱えるもっとも重大かつ危機的な問題であることは、誰も否定しないと思います。子供を持ちたくても持てない不妊で悩む患者さんに対して、我々、産婦人科医ができるひとつの提案のカタチとして、田中先生の取り組みは非常に価値があると思います。

田中・吉村

田中:ありがとうございます。ところで吉村先生はたくさんの肩書をお持ちで、多方面でご活躍されていることはよく存じております。なかでも、日本産科婦人科学会や日本生殖医学会の理事長として、現在の不妊治療に関する助成金制度を政府に働きかけて実現されたことは、我々生殖医療に関わる医師の中で知らない者はないと思います。

吉村:平成25年に少子化対策、子育て支援に関して、安倍総理や担当大臣に対し、情報提供や助言を行うことを任務として内閣官房参与を拝命しました。私は、「周産期医療の受益者は明日の社会そのもの」と考えています。日本の未来を築いてゆくのは女性と子供たちです。医療科学の進歩で平均寿命は延びる一方ですが、少子化対策についてはほぼ無策と言ってよかった。そんな状況に一石を投じたい、という思いもありました。

田中:吉村先生の働きかけで実現した特定不妊治療費助成制度によって、どれだけ多くの不妊で悩む患者さんたちが恩恵を受けたか分かりません。不妊治療のハードルが下がり、それにより、多くの患者さんが子供を授かることが出来たと思います。臨床現場の医師として、大変意義のある政策であったと感じています。

吉村:「女性が安心して子供を産み、育てる社会にしたい」私が医療の世界に身を置いて40年、揺るぎない思いとして得た信念です。田中先生には是非、同じ思いを持ってこの藤沢市で不妊治療と周産期医療への貢献を続けていただきたいと思っています。

田中:久しぶりに吉村先生の薫陶を受け、さらに目指すべき道が見えてきたような気がします。これまで以上に献身を惜しまず、地域の女性の健康と周産期医療を守る要となるよう、努力致します。これからも是非、ご指導ください。

吉村:もう「小田急線で帰れ」とは言わないから安心してください(笑)

田中:「・・・ありがとうございます。」

田中・吉村